迫真の演技をみせた宇崎竜童

　【戦慄！衝撃！リアル！　実録映画事件簿】ＴＡＴＴＯＯ〈刺青〉あり

　社会を震撼させた「三菱銀行北畠支店」で起きた猟銃立てこもり事件から今年で４０年を迎える。行員を楯にしてたてこもる男の姿をご記憶の方も多いだろう。映画には、実際にあった事件を基にした作品が多数存在する。今回はその作品とトリビアを紹介しよう。

◇

　先述の立てこもり事件をモデルにしたのがＡＴＧの『ＴＡＴＴＯＯ〈刺青〉あり』（１９８２年）だ。

　これまで５０本近いロマンポルノで名を馳せた高橋伴明監督が初めて一般映画にチャレンジした記念碑的作品。しかもプロデューサーが井筒和幸というから驚く。高橋は３３歳、井筒は３０歳。若きふたりの才能がこの１本で開花したわけだ。

　ただ資金がなかったので、キャストにはロマンポルノ並みの出演料で我慢してもらったと後に井筒自身が語っている。

　映画はかなり創作が入っている。例えば７８年、山口組のドン、田岡一雄組長が狙撃された「ベラミ事件」の実行犯、鳴海清の愛人がこの立てこもり犯の愛人だったという仰天事実から、鳴海を思わせるヤクザを登場させているのだ。

　少年院出の竹田は２０歳になって考えた。３０歳までにはなにか大きなことをやってやろうと。取りあえずはパンチパーマをあて、入れ墨を胸に入れた。自分を大きく見せるためだ。

　だが、ましな仕事につけるわけもなくキャバレーのボーイに。そこで目を付けたのがナンバーワンホステスの三千代だ。強引に口説き同棲を始めるが、三千代は竹田に愛想をつかし鳴海のもとへ逃げてしまう…。

　竹田はミュージシャンの宇崎竜童、ヒロインの三千代は関根恵子（後の高橋恵子）。この映画が縁で高橋監督と関根は結ばれている。

　主題歌は先日亡くなった内田裕也＆トルーマンカポーティーロックンロールバンドが歌う「雨の殺人者」だが、もちろん作曲は宇崎竜童だった。ちなみに第４回ヨコハマ映画祭で監督賞と主演男優賞を受賞している。

　戦後、犯人の射殺で解決した人質事件は７０年の瀬戸内シージャック事件、７７年の長崎バスジャック事件、そして本件のみ。この事件以降は４０年間起きていない。

　三菱銀行はその後、２度の合併があったが、事件の現場「北畠支店」は改装こそされたものの、建物は現在も「「三菱ＵＦＪ銀行北畠支店」として現存している。　＝敬称略（望月苑巳）

　■タトゥーあり　１９８２年６月５日公開。監督・高橋伴明、脚本・西岡琢也、製作・井筒和幸。第５６回キネマ旬報ベスト・テンでは６位に選ばれている。