著者

 

渡邊淳司(わたなべ じゅんじ)

 

NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 上席特別研究員。

 

人間の知覚特性を利用したインタフェース技術を開発、展示公開するなかで、人間の感覚と環境との関係性を理論と応用の両面から研究している。主著に『情報を生み出す触覚の知性』(2014年、化学同人、毎日出版文化賞受賞)、『ウェルビーイングの設計論』(監訳、2017年、BNN)、『情報環世界』(共著、2019年、NTT出版)。

 

ドミニク・チェン(Dominick Chen)
早稲田大学文化構想学部・表象メディア論系 准教授。公益財団法人Well-Being for Planet Earth 理事、NPO法人soar理事、NPO法人コモンスフィア 理事。ウェルビーイング、発酵、生命性をキーワードに、メディアテクノロジーと人間の関係性を研究している。主著に『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために』(2020年、新潮社)、『ウェルビーイングの設計論』(監訳、2017年、BNN)。

 

 

本書の要点

 

  • 要点1:人間の心の豊かさに関する概念である「ウェルビーイング」とは、人間が心身の潜在能力を発揮し、意義を感じ、周囲の人との関係のなかでいきいきと活動している状態を指す。
  • 要点2:ウェルビーイングは、欧米では「個人主義的」な視点に基づいて議論されてきたが、日本や東アジアにおいては身体的な共感プロセスや共創的な場における「わたしたち」の視点が欠かせない。
  • 要点3:ウェルビーイングを構成する重要な要因のひとつに「自律性」がある。自律的に社会創造に参加するという行為そのものが、一人ひとりのウェルビーイングを高めていく。

 

 

本書の要約

 

ウェルビーイングとは何か?

ウェルビーイングの見取り図

 

近年、人間の心の豊かさに関する概念である「ウェルビーイング(Wellbeing)」が注目を集めている。

 

2015年に国連で採択された「SDGs:2030年までの持続可能な開発目標」では重要な達成目標のひとつとして挙げられており、メディアでも取り上げられる機会が増えている。

 

ウェルビーイングは、直訳すると「心身がよい状態」だ。

 

「医学的ウェルビーイング」「快楽的ウェルビーイング」「持続的ウェルビーイング」という3つの定義で使われているが、とりわけ2000年代以降には「持続的ウェルビーイング」が注目されている。

 

これは、人間が心身の潜在能力を発揮し、意義を感じ、周囲の人との関係のなかでいきいきと活動している状態を指す。

 

本書でも、「持続的ウェルビーイング」を「ウェルビーイング」として論じている。

 

「わたし」と「わたしたち」

 

ウェルビーイングに関する研究の多くは、もっぱら「個人主義的」な視点に基づいて進められてきた。

 

特に欧米ではこの傾向が顕著だ。だが、集団のゴールや人間同士の関係性、プロセスのなかで価値をつくりあうという考えに基づく「集産主義的」な視点も無視できない。

 

とりわけ日本や東アジアにおけるウェルビーイングを考えるにあたっては、この集産主義的なアプローチが重要となる。

 

個人の身体と心を対象とした欧米型の「わたし」のウェルビーイングだけでは、身体的な共感プロセスや共創的な場における「わたしたち」のウェルビーイングの観点がこぼれ落ちてしまうのだ。

 

個人の心のなか、人と人のあいだ、コミュニティや社会、そしてネットのなか、という、独立しながらも影響しあうすべての領域を考慮しなければ、ウェルビーイングの総体を捉えることはできない。

 

私たちがいま取り組むべきは、ウェルビーイングの「解像度」を上げることであり、ウェルビーイングとはいったい何なのかを整理しなおすことだ。

 

そうすれば、「わたし」や「わたしたち」にとってのウェルビーイングとは何なのか、どうやってウェルビーイングを実現していくのかが見えてくるはずだ。

 

地域文化による違い

 

心理学者のエドワード・ディーナーらの研究によると、地域文化によって主観的ウェルビーイングの因子が異なることがわかっている。

 

たとえばアメリカ合衆国では、幸福とは個人が自らの能力を駆使することで獲得できるものだと考えられている(獲得型幸福)。

 

一方、日本や中国では、幸福な状態は幸運によってもたらされるとされている(運勢型幸福)。

 

そのため、日本や中国では、よいことが起こった後には悪いことが起こるのではないかという不安が生じる。

 

幸福観が違うと、世界認識にも差異が生まれる。

 

 

本の要約サイトフライヤーから引用