著者

 

石川善樹(いしかわ よしき)

予防医学研究者。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。

 

「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。

 

専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念工学など。

 

主な著書に『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』(News Picksパブリッシング)、『問い続ける力』(ちくま新書)等がある。

 

 

 

本書の要点

 

  • 要点1:あらゆることが考え尽くされた状況の中で、新しいアイデアを生み出すには「大局観」が不可欠だ。大量の情報を考え直し、視座を変えることで、誰もたどり着いていない「空白」を見つけることができる。
  • 要点2:既存市場の中でどれだけ質を高めても、「新しく質の低いもの」には勝てない。まずは新しくして、それから質を高めるべきである。
  • 要点3:人は誰しもバイアス(思い込み)を持っている。これを見つけて破壊することで、イノベーションが生まれる。

 

 

 

本書の要約

 

Think Different 創造的に考えるとは何か?

 

本書のテーマは「創造的に考える、すなわち、Think Differentとは何か?」である。

 

何かを「考える」時にはまず、「どこから考え始めるか?」から考えなければならない。

 

Think Differentの「Different」の語源をたどると、「離れたところに置く」とある。

 

つまり、みんなが固まっているところから距離を置くという意味である。

 

日本では、多くの人が同じようなことを考えているため、それと違うことを考えるのは簡単だ。

 

しかし海外では、基本的にみんな考えていることがバラバラである。

 

では、「みんな違う」という前提のもとで、さらに違うということは、どういうことなのか。

 

ビールを例にとろう。昔は数えるほどの商品しかなかったのに、今は相当な種類の商品がある。

 

さらには、発泡酒や第三のビールまで販売されている。

 

このような状況の中でイノベーションを起こすためには、さらに違うことを

考えなければならない。

 

今はビジネスでも研究でも、あらゆる分野でThink Differentが求められている。

 

 

松尾芭蕉のすごさ

 

歴史上、日本人で最もThink Differentしたのは松尾芭蕉だ。

 

MITメディアラボのセザー・ヒダルゴ氏が考案した、歴史上の人物の影響力を点数化する

「ヒストリカル・ポピュラリティ・インデックス(HPI)」という指標がある。

 

具体的には、ある人物に関するWikipediaについて、「その人のページが何カ国語に訳されているか」「どれくらいのページビューがあるか」を計算する。

 

すると、意外にも松尾芭蕉が1位であった。なお

2位以下は織田信長、昭和天皇、葛飾北斎、徳川家康と続く。

 

 

松尾芭蕉といえば、「古池や蛙飛び込む水の音」という俳句が有名だ。

 

この句がなぜすごいのか。まず、「古池や」は「侘び」を表している。

 

「古池」は「池」と違い、かつて池であったものをイメージするため「侘び」といえる。

 

次に「蛙飛び込む」は「雅さ」と「下品さ」の象徴である。

 

『新古今和歌集』以後、蛙の鳴き声は雅の象徴であった。

 

しかし、その蛙を鳴かせずに飛び込ませるのは下品ということになる。

 

そして最後の「水の音」は「寂び」を示す。「寂び」とは、物事の生命の本質が

みずみずしく現れているということだ。

 

つまりここで初めて池が死んでいなかったことがわかる。

 

「生命のいない白黒の世界」から「みずみずしい生命あふれるフルカラーの世界」へと

ドラマチックに展開する。そんな句を生み出せるのが、松尾芭蕉のすごさなのだ。

 

 

破壊的イノベーション

 

では、芭蕉をThink Differentの観点から分析するとどうか。

 

そもそも、新しいアイデアを生み出すには、論理、直観、大局観の3つが必要である。

 

中でも最も鍛えるのが難しいのは大局観だ。

 

これまで考え尽くされた問題を解くためには、大局観が欠かせない。

 

なぜなら、大量の情報を新しい方向から考え直し、誰もたどり着いていない空白地帯を見つけなければ、答えが出ないからだ。

 

しかし、一見「やり尽くされている」ような事象も、視座の「軸」を変えることで

「空き」を見つけられる。

 

破壊的イノベーションは、アップグレード(質)とアップデート(新しさ)のように、「あちらを立てたらこちらが立たない」という「トレードオフ構造」を両立させたところに起こるのだ。

 

この前提をもとに、松尾芭蕉のすごさに関する分析に進もう。

 

日本にはもともと貴族が詠んでいた「和歌」がある。

 

俳諧は和歌のターゲットを変え、ふざけた要素を加えてアップデートしたものである。

 

芭蕉はさらに、この俳諧に「侘び」「寂び」をとり入れてアップグレードした。

 

つまり、芭蕉のすごさは「まず新しくした後に、質を高めた」ところにあるといえる。

 

一方、既存顧客(貴族)に過剰適応した和歌は、新しいターゲット(庶民)に展開していくのが難しかった。先に質を上げると、「イノベーションのジレンマ」に陥ってしまう。

 

既存の市場に順応し過ぎた結果、新参者の「質が低いが新しいもの」に駆逐されてしまうのだ。

 

そのため、まずは質にこだわらず、一回新しくした後に質を高める。

 

これこそが、私たちが芭蕉から学べるThink Differentの鉄則である。

本の要約サイトフライヤーから引用