著者

 

ダイアナ・レナー

 

企業コンサルタント、教師、作家。Uncharted Leadership Institute 共同創設者、Not Knowingラボ設立者。

 

 

個人や組織が不確定な時代を進み、複雑な課題に立ち向かっていくためのサポートをしている。ハーバード大学、テキサス大学、オーストラリア各地の大学で教壇に立つ。夫と、子ども2人とともに、オーストラリアのメルボルン在住。

スティーブン・デスーザ

企業コンサルタント、教育者、エグゼクティブコーチ。ディーパーラーニング社取締役、IEビジネススクール非常勤講師、サイード・ビジネススクールとオックスフォード大学のアソシエイト・フェロー、INSEADリーダーシップコンサルタントおよびコーチ。世界的経営思想家を選ぶThinkers 50 Radarや、『HR』誌が全世界を対象に選ぶ「最も影響力のある人物」トップ30にも選ばれている。

 

 

本書の要点

 

  • 要点1:「しなければならない」という衝動に突き動かされるのは、世界の自然な流れに逆らうせいだ。流れを受け入れる「しない(Not Doing)」を実践することによって、無理をせずに才能を発揮しやすくなる。
  • 要点2:創造的であるためには、「ある」を追求する力である「ポジティブ・ケイパビリティ」と、「ない」を受容する力である「ネガティブ・ケイパビリティ」の組み合わせが重要であるが、多くの人には「ネガティブ・ケイパビリティ」が不足している。

 

本書の要約

 

「しなければ」という執着

力まずに、広い視点を持つための「しない」

 

あまりに忙しく、最善を尽くしているのに手応えが感じられない。

 

焦りが募り、喜びは少ない――。そんな気持ちになってしまうのは、自分と自分の属しているシステムの間で行動のダイナミクスが食い違い、空回りをしているせいかもしれない。

 

波に抵抗し、もがいていると、へとへとになり、ときには心身を壊してしまう。

 

大事なのは、流れの中で岸にしがみつこうとする手を放すこと。

 

そして、自分を取り巻く世界の自然なエネルギーに乗ってみることである。

 

エネルギーを受け入れ、そのリードに従うのだ。本書ではそれを「しない(Not Doing)」と定義する。

 

「しない」と聞くと、空虚で人任せだと感じるかもしれないが、著者たちの意味するところはそうではない。

 

ここでいう「しない」とは、物事をやりこなす方法を狭い視野で見ないための防御手段だ。

 

押したり引いたりするのではなく、逆らわずに委ねて、ともに歩く。

 

そうすることで力みをとって、現状をより広い視野で見られるようになる。

 

無理に道を切り開こうとするのではなく、自然に切り開かれた道を選んで進む方が、速く、安全に目的地にたどり着けるのだ。

 

忙殺の日々

 

ここからは、「しなければ」という執着にとらわれてしまった人たちの例を紹介しよう。

 

47歳のアレステアは、オーストラリアの大企業のCEOを務め、メルボルンの高級住宅地に住み、結婚して2人の息子に恵まれる。

 

ビジネスで抜きんでた成功をつかんでいながら、彼は人生で最悪の状態といっても過言ではなかった。

 

子供の頃のアレステアは、父親が会社のお荷物扱いされて退職し、酒に溺れていく姿を見ていた。

 

それを反面教師にし、「自分は人生の成功者になる」と決意。

 

10代後半からインターンとして入った会社で順調にキャリアアップし、40歳でCEOの座を射止める。

 

絵に描いたようなサクセスストーリーだが、貧しさへの恐怖から、働く時間や担う責務をどんどん増やしていった。

 

睡眠も食事も犠牲にしていた彼は、健康を気遣う妻ともうまく話し合えず、不安を酒で慰めるようになる。

 

心配や疲れから、家族にも八つ当たりをするようになった。

 

そんなある日、アレステアが夜中に帰宅すると、家は無人だった。家族が出ていったのだ。

 

その後アレステアは、パニック発作を起こし、精神科医の助けを借りることとなる。

 

貧乏への恐怖にかられて成功を追いかけていたが、はっきりした目標は描いていなかったのである。

 

アレステアは医師とともに、成功への執着の背後にある心理的要因を探っていった。

 

 

そこでわかったのは、彼が本当に望んでいたのは、家族との絆と結束であるということだ。

 

貧乏が家族を壊したと思っていた彼だったが、本当は他にも複合的な要因が絡み合っていたのだ。このエピソードは、仕事と人の不健全な関係の核心部分を垣間見せてくれる。

 

「逃すのが怖い」という気持ちに突き動かされる

 

もう1つ、仕事と不健全な関係を築いてしまった人の例を紹介しよう。

 

サムは、メルボルンの地方自治体でマネジャーとして働いていた。

 

舞い込んでくる仕事全てに対し、「NO」といえずにいたという。

 

断ったら、チームプレイができない、怠けている、無能だと思われるかもしれない。

 

さらには、将来の機会を逃すかもしれない。そうした考えからすべてを引き受け、多大なストレスを感じていた。

 

中にはやりがいのありそうなプロジェクトもあったため、仕事を減らそうとするたびに、「楽しい案件を逃すのでは」と不安になってしまうのだ。

 

「逃すのが怖い(fear of missing out, FOMO)」という感情は、珍しいものではない。

 

これは、何かを逃したと思いたくない一心でしがみつく性癖のことだ。

 

職場でのFOMOは、必要以上の委員会に参加したり、断りたい業務も引き受けたりするといった形であらわれる。

 

FOMOの根底には、選ぶことへの不安がある。

 

何かを選ぶことは、別の選択肢を除外することだ。

 

「仕事をしている」という感覚に執着するのは、一種の依存といってよい。

 

自分の本当の願いは何なのか、自分で自分にどんな期待をかけているのか。

 

私たちは自分の限界に向き合い、すべての選択肢を残すことはできないと認めなければならない。

 

「ない」を受容する力

ネガティブ・ケイパビリティの重要性

 

現代人は業績や成果、効率に対して多大なプレッシャーを感じている。

 

一時停止して内省する時間やゆっくりとアイデアを練る時間は、あまり評価されない。

 

イギリスの学者ロバート・フレンチらは、仕事において2つのケイパビリティが必要だと語っている。

 

1つは、「ある」を追求する力である「ポジティブ・ケイパビリティ」。

 

もう1つは、「ない」を受容する力である「ネガティブ・ケイパビリティ」だ。

 

この2つのケイパビリティの組み合わせが、確実と不確実の境目で働くための創造的度量、クリエイティブ・ケイパビリティを生むのだという。

 

「ない」ことの受容にだけ固執すると、人任せで空疎に終わる。

 

一方、「ある」ことの追求にのみ突き進むと、行動への執着が生まれてしまう。

 

そして現代の私たちには、ネガティブ・ケイパビリティが圧倒的に足りていない。

 

本の要約サイトフライヤーから引用