著者
石弘之 (いし ひろゆき)
1940年生まれ。東京大学卒業後、朝日新聞社に入社。
ニューヨーク特派員、編集委員などを経て退社。国連環境計画上級顧問、東京大学・北海道大学大学院教授、ザンビア特命全権大使などを歴任。この間、国際協力事業団参与、東中欧環境センター理事などを兼務。
国連ボーマ賞、国連グローバル500賞、毎日出版文化賞を受賞。主な著書に『地球環境報告』(岩波新書)、『名作の中の地球環境史』(岩波書店)、『私の地球遍歴』(講談社)、『鉄条網の歴史』(洋泉社)など多数。
本書の要点
- 要点1:宿主(しゅくしゅ)と微生物のせめぎ合いは、まるで軍拡競争のようだ。病原体から身を守るために宿主の生物は防御手段を進化させる。すると病原体もまた、その防御手段を破って感染する方法を進化させる。
- 要点2:かつては人口密度が低かったため、病気は広がりにくかった。だが農業が始まって定住化し、集落が発達するにつれて、感染症が流行するようになった。
- 要点3:感染症は人類に害だけではなく、ときとして利益をもたらす。
- 要点4:もともと害のないウイルスも、家畜化された動物に感染を繰り返すことで遺伝子変異し、ついには人にも被害をもたらすようになる。
本書の要約
人類と微生物の果てしない軍拡競争史
人と微生物の共進化
人類はアフリカの共通の祖先から分岐しながら、多様な進化を遂げてきた。
同様に、ピロリ菌やエイズ、麻疹、水痘(水ぼうそう)、結核などの原因となる病原性微生物の起源もアフリカだとされている。
これらは宿主の人とともに進化し、世界に拡散していったものの子孫だ。
ウイルスは病気をもたらす厄介者と考えられがちだ。
しかしRNAウイルスの一種であるレトロウイルスは、自分の遺伝子を別の生物の遺伝子に組み込むことで、生物進化の原動力になってきたとも考えられる。
というのも、生物は感染したウイルスの遺伝子を自らの遺伝子に取り組み、それが突然変異を経て遺伝情報を多様にし、進化を促進してきたという側面があるのだ。
実際に人を含むどんな生物にも、ウイルス由来の遺伝子が組み込まれている。
微生物と宿主の永遠の戦い
哺乳類の体内は温度が一定で栄養分も豊富だ。
微生物にとっては、なんとしてでも住みつきたい環境だといえる。
一方で宿主からすると、微生物は迷惑な存在だ。
感染すれば細胞が損傷したり、栄養分を奪われたり、遺伝子を乗っ取られて細胞ががん化したりしてしまう。
微生物と宿主との関係は、次の4つに分けられる。
1つめは、宿主が微生物の攻撃で敗北し死滅するパターンだ。
この場合、微生物が他の宿主に移らないかぎりは、微生物も宿主と運命を共にすることになる。
致死率の高いエボラ出血熱が、局地的な流行でおさまっているのもこのためである。
第2のパターンは、宿主側の攻撃で微生物が死滅することだ。
ワクチンによって天然痘は根絶され、ハンセン病やポリオや黄熱病もそれと同じ道を辿ることが期待されている。
3つめは、宿主と微生物が和平関係を結ぶ場合だ。
これらの微生物は、普段おとなしくしているため「日和見菌」と呼ばれる。しかし宿主の免疫が低下すると猛威を振るい出す。
第4は、宿主と微生物の両者が防御を固め、果てしない戦いを繰り広げるケースだ。
たとえば水痘ウイルスは、一度感染すると宿主の神経細胞にずっと潜むことで知られている。
宿主と微生物のせめぎ合い
宿主と微生物のせめぎ合いは、まるで軍拡競争のようだ。
人類はワクチンや抗生物質などを開発し、病気を抑え込もうと努力してきた。
そうした努力が実り、乳幼児の死亡率は急減。
世界人口は急増し、平均寿命も長くなった。
しかしそれでも人は日常的に風邪や下痢に悩まされているし、新型インフルエンザや風疹などの突発的な流行に依然として脅かされている。
病原体から身を守るため、宿主となる生物は防御手段を進化させる。
だが病原体もまた、その防御手段を破って感染する方法を進化させる。
人類と微生物の歴史は、その繰り返しなのだ。
本の要約サイトフライヤーから引用