著者

 

北野唯我(きたの ゆいが)

 

兵庫県出身、神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社。

 

 

 

ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。現在取締役として人事領域・戦略領域・広報クリエイティブ領域を統括。またテレビ番組や新聞、ビジネス誌などで「職業人生の設計」「組織戦略」の専門家としてコメントを寄せる。
著書に『転職の思考法』『オープネス』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)、『分断を生むエジソン』(講談社)がある。

 

 

 

百田ちなこ(ももた ちなこ)

福島県出身、埼玉県在住。

漫画家・イラストレーター。
コミックエッセイ、4コマ、広告漫画等を中心に活動中。
著作に『地方女子の就活は今日もけわしい』(KADOKAWA)、『理系夫とテキトー奥さん』(イースト・プレス)、WEB連載に「残念OLはキラキラ妄想がお好き」(マイナビニュース)等がある。

 

 

本書の要点

 

  • 要点1:「14の労働価値」とは、人が仕事をする上で大切にしている価値観である。
  • 要点2:仕事に求める価値観は一つではないし、それらを100%満たせる職場もない。副業しやすい現代では、「分散して満たす」生き方も可能だ。
  • 要点3:キャリアタイプには、「スキル型のキャリア」「意志型のキャリア」「チーム型のキャリア」「バランス型のキャリア」の4つがある。
  • 要点4:「これからの生き方」を考えるには、まずは自身の価値観を明らかにすることだ。そのためには、感性を磨き、物事の感じ取り方を客観的に分析することが重要だ。

 

本書の要約

 

漫画編『これからの生き方。』

あらすじ

 

出版社の雑誌編集部に勤める副編集長・小林希(29)は、史上最年少の編集長就任に意欲を燃やしていた。

 

昇進するには、4年連続となる売上記録更新を実現しなければならない。

 

そこで希が企画したのは、チョコレート専門店「サンセリテ」のオーナーであり、伝説のショコラティエである土尾紀男(60)の巻頭インタビューだった。

 

ところが、希の強引な態度を好ましく思わない土尾は、元々メディア嫌いということもあって、なかなか取材を受けてくれない。

 

シニア編集者の本間健太郎(52)は土尾と接点はあるものの、希を出世させまいと非協力的で、真っ向から対立する。

 

そんなとき、土尾の右腕・上山公二(34)がフランスの名門店での修行を終えて帰国する。

 

すぐにでも新作を土尾に試食してもらい、実力を認めてもらいたいという野心に燃える。

 

なんとしても業界のレジェンドである土尾の特集を自身の手で成功させたい希は、上山に土尾との対談を言葉巧みに持ちかける。

 

希が尊敬している編集長の横田航(42)は、希のために本間との仲裁に入るが、希と本間との衝突は激化する一方。

 

希はいったいなぜ、そこまで土尾に執着するのか。

 

希が編集長を目指す先に求めているものとは?

 

異なる価値観を持つ登場人物たちの「生き方」がぶつかり合いながらも、事態は思わぬ展開を迎えることとなる。

 

 

「14の労働価値」で自分を知る

なぜ職場で人と衝突してしまうのか

 

人には仕事をする上で大切にしている価値観がある。

 

アメリカの心理学者、ドナルド・E・スーパー氏は、それを「14の労働価値」として提唱した。

 

「14の労働価値」とは、「能力の活用」「達成」「美的追求」「愛他性」「自律性、自立性」「創造性」「経済的価値」「ライフスタイル」「身体的活動」「社会的評価」「危険性、冒険性」「社会的交流性」「多様性」「環境」である。

 

たとえば、これらを漫画編のキャラクターに当てはめると次のようになる。

 

最年少編集長の座を狙って4期連続の売上部数記録更新に挑むのが、主人公・小林希である。

 

彼女が仕事で重視しているのは、「自分の能力を活用すること」「達成」「美的に追求できること」「自立的で創造的な仕事であること」だ。

 

それに対して、ことあるごとに希と対立するベテラン編集者の本間健太郎はどうか。

 

彼が大切にするのは、「ライフスタイル」や「環境」だ。

 

希が大切にする価値観は、本間にとってはそれほど重要ではない。

 

14の労働価値に照らして比較してみると、二人が仕事をする上で大切にしている価値観にズレがあることに気づくだろう。

 

職場で起こる衝突は、たいていこういった価値観の相違に起因していることが多い。

 

 

なぜ尊敬する上司に不信感を抱いてしまうのか

 

もう一組のキャラクター、土尾と上山についても比較してみよう。

 

土尾紀男は日本を代表するショコラティエである。

 

その右腕として働いていた上山公二は、パリの名門で5年間の修行を終えて意気揚々と帰国した。

 

すぐさま土尾に新作を披露し、実力を認めさせたいと意欲に燃えていた上山にとって、特に大切な価値観は「経済的価値」と「社会的評価」である。

 

かたや土尾にとって、報酬や社会的評価の重要度は下がっていた。

 

それゆえ以前ほどは仕事への厳しさもなく、自分でショコラを作ることもなくなっていた。

 

それが上山には情熱を失ったように見えたのだ。

 

実際のところ、土尾は後進の教育に力を注ぐようになっていた。

 

この価値観の相違によって、野心家の上山は尊敬する師匠へ不信感を抱くようになり、それが衝突を招いてしまう。

 

食事や衣服、住む場所などの「身体的な好き嫌い」は、お金があればなんとかなる。

 

しかし「思想的な好き嫌い」はお金ではどうにもならない。

 

これには唯一の正解はないからだ。

 

「自分と他人は違うものだ」と考えれば、気が楽になるかもしれない。

 

だが、それでは永遠にわかり合える日は来ない。

 

価値観が違う部分もあるが、わかる部分もあることを丁寧に再確認しながら少しずつ歩み寄る。

 

それが大人になるということなのだ。

 

分散して満たす生き方

 

「今の仕事に100%満足しているか」と聞かれて、YESと答えられる人はなかなかいない。

 

現実的には、100%完璧な職場など存在しないからだ。

 

では、それでも満足のいく生き方をするためには、どうすればいいのか。

 

漫画のキャラクターたちが仕事に求めていたものを思い出してほしい。

 

彼らの働く理由は一つではないはずだ。

 

仕事に求める大切な価値観が複数あるなら、一つの職場ですべてを満たす必要はない。

 

たとえば著者は、会社では「達成」や「ライフスタイル」を求め、作家としては「創造性」や「美的追求」を求めているという。副業によって、本業では得られないものを得ることもできるだろう。

 

長い人生においては価値観も移り変わる。

 

幸い、現代は「分散しやすい」時代だ。

 

本業で満たせないものは副業や趣味に分散し、全体として満たしていく生き方もできるのだ。

 

物語の効用

登場人物の生き方に学ぶ

 

物事には、たいてい「大きな方針」と「小さな方針」がある。

 

大きな方針は、どの方向を目指して自分のキャリアを積み上げていくのかという長期的な視点を伴う。

 

一方、小さな方針は目の前の目標をいかに達成するのかという短期的な視点によるものだ。

 

大きな方針とは、言ってみれば、自分がどんな価値観を大事にして、どう生きるかという方法論である。

 

それは自分自身の生き方そのものであり、それを実現するためのキャリア戦略とも言える。

 

生き方を決めることは、もちろん簡単ではない。ゲームのようにセーブしながら、うまく行かなかったら違う選択肢を選び、検証しながら進めることはできないからだ。

 

ではどうするか。人の知恵や情報を借りればいい。ここに物語の価値がある。

 

偉人伝や冒険譚など、他者の物語を通して、自分が選ばなかった人生を追体験することができる。

 

物語の登場人物の生き方をパターン化して認識すれば、自分の生き方の参考にできるだろう。

 

 

キャリアのタイプで生き方を考える

不屈の精神で突き進む「意志型のキャリア」

 

つづいて、漫画編で登場したキャラクターを例にして、キャリア戦略を立てるうえで参考になる考え方を紹介する。

 

キャリアタイプには、「スキル型のキャリア」「意志型のキャリア」「チーム型のキャリア」「バランス型のキャリア」の4つがある。

 

この中からどれか1種類だけが当てはまるというわけではない。

 

キャリアタイプは、自分の強みや人生のフェーズによって変わりうる。

 

ここでは「意志型のキャリア」を例に取り上げよう。

 

漫画のキャラクターでは、副編集長の希やシェフ・上山がこれに相当する。

 

このタイプの一番の特徴は、「自分はこうしたい」「必ず成功してやる」という気持ちが人一倍強く、不屈の精神を持っている点だ。

 

そのため大成功も大きな失敗も経験し、山あり谷ありの人生を歩む傾向にある。

 

目標達成のためには他人を利用することも厭わない面があり、まわりに傲慢な印象を与えてしまうこともある。

 

相手のことまで気が回らないため、たとえ成果を出したとしても、しっぺ返しをくらうこともあるだろう。

 

意志型のタイプが30代までに学ぶべきこと

 

不屈の精神というのは、なかなか手に入れられない稀有な才能だ。

 

しかし、意志型のキャリアタイプの人は、その意志の強さゆえに傲慢で強引な態度になりやすい。希や上山のように人との衝突は避けられないだろう。

 

このタイプの人が20代〜30代で学ばなければならないのは、「相手に損をさせない勝ち方」である。人との付き合いというのは、「Win―Win」の関係でなければ必ずどこかで問題が生じる。

 

経済的な利益だけでなく、相手が大事にしている価値観を理解し、尊重することが重要となる。

 

 

また、意志型のキャリアタイプの人は、「環境を強引にでも変える方法」を身につけるとよい。

 

「圧倒的な強い意志」はいつまでも持続できるものではない。

 

オーナーシェフの土尾のように、通常は年齢とともにキープすることが難しくなっていくものだ。

 

そこで意図的にでも環境を変え、自分により強いプレッシャーをかけ続けることが効果的だ。

 

上を目指していきたいなら、人生のフェーズに合わせて働く場所や国、環境を変える必要があるだろう。

 

最後に、意志型のキャリアを歩む人にとっての鬼門は「自分の心の弱さ」にある。軸がぶれないよう、何度も復唱できる自分なりの使命や信念を見つけておきたい。

 

「これからの生き方」を考える

なんとなく不満なのは、○○を決めていないから

 

30歳を過ぎた著者は、周囲を見渡すと、生き生きと活躍している人がいる一方で、「人生を持て余している」同年代がいることに気づいた。

 

そんな彼らは30代半ばにして早くも世間の固定観念にとらわれ、自身の才能を発揮することもなく、漠然とした不満を抱えながら生きている。

 

他人の生き方に口をはさむのは大きなお世話かもしれない。

 

しかし、若いうちからなぜそんなに人生を持て余しているのかと不思議でならなかった著者は、そのことについて思案した。

 

すると、「これからの生き方」を決めていないことがそもそもの原因ではないかと思い当たった。

 

ここでいう「生き方」とは、人生において何を大事にするのかを意味する。

 

優先順位は人それぞれでよいが、問題は、自分自身の価値観を自分が理解していないことにある。

 

人の生き方とは、言ってみれば、自分が大事にする価値観を日常生活でくり返し実践する「習慣」なのだ。

 

自分の価値観すら明確にできていない人に、「これからの生き方」を決められるはずもない。

 

 

感性を磨く

 

本書の目的は「感性を磨く」ことにある。

 

ここでいう「感性」とは、違いに気づく力を指す。

 

自分と他人はどう違うのか。

 

今の自分と一年前の自分はどう変わったのか。

 

なぜこちらの意見には賛成できるのに、あちらの意見には賛成できないのか。

 

こうした「差分」に気づくには、自分をよく知った上で実際の体験を客観的に分析する必要がある。

 

このようにして、あなたが何を感じ、なぜそれがいいと思ったのかを客観的に捉え直すことを続けていけば、次第に感性が磨かれていくだろう。

 

最初はなんとなく感じる違和感を拾い上げるのでもいい。

 

自分の価値観が明確になっていけば、感性に磨きがかかる。やがては自分なりの「これからの生き方」も鮮明になってくるだろう。

 

一読のすすめ

 

本書の面白さの一つは、ビジネス書としては異色な構成にある。

 

第1章は登場人物たちの生き方が描かれた「漫画編」だ。

 

続く第2章は「ワーク編」となっており、登場人物の生き方をタイプ別に分析することで、読者が自己分析に役立てられるようになっている。

 

そして第3章の「独白編」では、著者自らの体験談や「これからの生き方」にまつわる考えへと話が展開していく。

 

特徴的なのは「特別インタビュー」である。

 

これはなんと漫画編の登場人物に対して5年後に行われたインタビューだという。

 

もちろんフィクションではあるものの、価値観の異なる人たちの生き方をより鮮明に理解させてくれる重要なパートだ。

 

こうした工夫の背景には、読者が「これからの生き方」をより深く、楽しみながら考えられるようにという著者の配慮があるはずだ。ぜひ最後まで楽しんでほしい。

 

 

本の要約サイトフライヤーから引用