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米アップルの結束の固い工業デザインチームで、ベテラン社員の退職が相次いでいる。同社の美学を形成し、iPhone(アイフォーン)をはじめとする製品の開発を主導した名高いグループの「政権交代」だ。
アップル勤務歴が2人合わせて35年を超えるリコ・ゾーケンドルファーとダニエレ・デウリス両氏が最近、退社を決めた。この件に詳しい複数の関係者が明らかにした。勤務歴10年のジュリアン・ヘーニッヒ氏も、同氏のプランに詳しい複数の関係者によると、数カ月中に退社する計画だ。
ゾーケンドルファー氏は、家族と過ごすために仕事を中断するとし、アップルのデザインチームで働けたことを光栄に思うと述べた。デウリス氏からは今のところコメントは得られていない。ヘーニッヒ氏はコメントを差し控えた。
2000年代にアップルを復活させ、iPhoneやiPad(アイパッド)、アップルウオッチの開発に携わったデザインチームの中核メンバーの離脱表明は、新製品発表が一時的に途絶えている中で起こった。iPhoneの売れ行きが減速する中、アップルは今年、新しい機器よりも新しい定額制サービスに力を入れている。また、1年余り前にジョニー・アイブ氏が再び工業デザイングループの日常業務の指揮を執り始めたという背景もある。
二十数人のメンバーで構成され、社内で「ID」と呼ばれる工業デザインチームは、アップル製品の外観と操作性のデザインを担当している。史上最も成功した製品の1つであるiPhoneも手掛けた。同社は近年、デザインスタッフを補充しており、米スポーツ用品大手ナイキや独立系の制作会社、デザイン学校出身者を増員している。ベテランスタッフの退社に伴い、最近採用されたスタッフが製品開発でより大きな責任を引き受けることになる。
「アップルで全権力を握っているのがこのグループだ」。アップルの分析に特化したサイト「アバブ・アバロン」を運営するニール・サイバート氏はこう話す。「アップル端末のユーザー体験に対する最終決定権を持つのが工業デザイナーで、彼らはある意味、家族のように仕事をしている。とはいえ、新しい血が入ることに異論を唱える人はいないだろう」
サイバート氏は、チーム構成の変更は理にかなっていると話す。アップルはMac(マック)やiPhoneの設計から、拡張現実(AR)や自動運転車といった分野の新プロジェクトにシフトしているからだ。
アップルは、iPhone事業の急な低迷に苦戦しており、年末商戦期(2018年10-12月期)決算が約10年ぶりに減収減益となった。同社は3月、iPhoneの減速を補うべく、テレビ番組やゲーム、雑誌の定額制サービスを新たに発表した。主力のiPhone、Mac、iPad、アップルウオッチの製品ラインは昨年刷新したものの、新カテゴリーの製品としては2017年にスマートスピーカー「HomePod(ホームポッド)」を2016年にワイヤレスイヤホン「AirPods(エアポッズ)」を発表したきりだ。
IDグループは、共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏が1997年に復帰して以降、アップルの事業再生で主要な役割を果たした。このアイブ氏率いる小さなチームが一丸となり、キャンディーカラーの「iMac(アイマック)」を設計。米国でたちまち最も売れ行きのいいコンピューターとなった。その後も彼らの手掛けた製品は次々とヒットし、モバイルコンピューター時代を定義づけるデザインを生み出した。
ジョブズ氏は、デザインチームを製品開発プロセスの中心に据え、新製品の進ちょくを確認するためほぼ毎日訪れるなど注意を惜しまなかった。IDチームの一部メンバーによると、社内でのステータス向上とジョブズ氏による厚遇が相まって、チームは仕事や社交を共にする結びつきの強いグループとなり、ここ10年余り退職者がわずか数人しかいなかった。
アップルは時価総額で世界首位になり、デザイナーは与えられた株式で大金を手にした。その多くが家を2軒保有し、中には3軒持つ人もいた。
チームに詳しい複数の関係者によると、アップルが提供するリソースを糧に成功を収めていた彼らは、以前は会社をやめてキャリアが落ちることを懸念していたが、その結束が徐々に緩み始めた。早い段階でチームを離れたのが、2016年にウエアラブルカメラを手掛ける米ゴープロに移籍したダニー・コスター氏や2017年に退職し、しばらくしてからオーディオのスタートアップ企業を立ち上げたクリストファー・ストリンガー氏だ。
一方で、アイブ氏が2015年にIDの日常業務の指揮を外れ、2017年に落成したアップルの新社屋のデザインに専念することになった。アイブ氏が17年12月に復帰するまでは、リチャード・ハワース氏が工業デザイン担当副社長としてチームを率いた。
ゾーケンドルファー、デウリス両氏の退社は、新たなIDチームの誕生を示唆している。
「われわれには素晴らしい新任のデザイナーたちがいる。新世代だ」。ゾーケンドルファー氏はこう述べている。「ここ20~30年にわれわれが可能にしてきたことは今後も続く。人材はそろっている」
By Tripp Mickle
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